「はい...はい、大変申し訳ございません、えぇ、えぇ、はい
おっしゃるとおりでございます、ええ」
桂川さんの電話対応の空気が変わった
クレーマーの登場だ
電話やメールっていうのは、本当に恐ろしい発明だと思う
普段、面と向かっては人に怒れない人でも
電話やメールをとおせば怒ることができるようになる
「はい、はい、えぇ、もうしわけございません、えぇ
大変申し訳ありません、えぇ」
普段社会から軽んじられていると感じている主婦や
金は苦しみの対価として得るものだ、という価値観を確立させたサラリーマンたちが
こぞって消費者としての権利を主張してくる
誰も誰かを尊敬しない時代にあって
消費者としての権利はとても貴重なものだ
尊敬に似た畏怖を誰もがほしがっている
たとえそれが、形式的なものだったとしても、だ
「はいはい、えぇ、いえ、決してそのようなつもりは。。。えぇ
えぇ、はい、えぇ」
彼らのリスペクトへの飢えと日頃のストレスをふんだんに浴びて
コールオペレーターは離職率ナンバーワンの職業だ
人々が世界で受けたストレスを電話口に流し込み
その流し込まれたストレスをトイレのように受け取って
見えない相手に向かって頭をさげるのが僕らの職業だ
「はい、はい、えぇ、おっしゃるとおりで、えぇ、えぇ、はい
申し訳ございません、えぇ」
ぱらっ。。。桂川さんの頭から髪の毛が抜け落ちるのが
見えたように僕には思われた
そっ、そうなのか!桂川さんの髪の毛は
世界の小心者たちの電話を通しての怒りを受け取って
コエダメとして、死んでいっていたのか。。。
ぱらっ、ぱらっ、ぱらぱらぱらっ、どさっ!
僕には、電話口の彼の怒りに比例して、桂川さんの髪の毛が死んでいくのが
目に浮かぶようだった
ダメだ、ダメだよ、桂川さん
あなたの髪の毛は、他の人のそれよりも
はるかに取り返しのつかないものなのだから
「えぇ、えぇ、はい。大変申し訳ございませんでした
えぇ、はい、今後は二度とこのようなことがないように
はい、えぇ、はい、ご迷惑をおかけいたしました
はい、えぇ、申し訳ございませんでした
はい、では本日、担当かっつっらがわがうけたまわりました
失礼いたします」
ほっ、なんとか毛根が全て焦土と化す前に
クレーマーによるストレス絨毯爆撃はその幕を閉じたようだ
「おぉつかれ〜っす、桂川さん
けっこうきっつい感じのやつでしたか?」
「あぁ、そうだね、まぁけっこう」
けんちゃんが明るく話しかけてあげている
やはり、この仕事を続けられるかどうかは、電話が終わったあとのリフレッシュができるかどうかにかかっていて
けんちゃんもそれはじゅうぶん承知だ
クレーマーを対応したままの精神状態で電話にでれば
それがそのまま、次の電話の声にでてしまい
その電話もクレームに発展しかねない
しかし、けんちゃんがいくら明るく話しかけても
桂川さんはいまいち沈んだままだ
それはそうだろう
あれだけのストレスを受けたんだもの
毛根が気がかりで元気などだせるはずがないだろう
「よ〜っし、じゃあ今夜はぱぁっと、桂川さんをはげます会
ひらいちゃいましょうか、ね?桂川さん、今夜はヒマっすか?」
なっ!桂川さんをハゲ増す会っ!
けんちゃん、それは皮肉でいっているのかい?
きみは本当は桂川さんが嫌いで、それでそんなネーミングを?
「まっ、まぁ今夜は特に予定ないけど。。。」
ほら見てみろ!桂川さんも縁起でもないネーミングに微妙な感じを隠せないじゃないか!
ハゲ増す会なんて、ニガーってのと同じくらい言っちゃあいけない言葉だと思う
人として
「よっしゃ、じゃあ決まりだね
お〜い、皆、今日桂川さんをハゲ増す会、やんない?」
「おぉ、いいね〜、わたし、めちゃめちゃハゲ増し上手だからね
桂川さん、今夜は全力でハゲ増すからね♪
きっと、ハゲ増す会の前とあとじゃあ、見違えちゃうよ
よーし、めちゃくちゃハゲ増すぞぉ」
おいおい、どんなスキルだよ、ハゲ増し上手って!
ニ時間弱の飲み会の前と後じゃあ見違えるほど
ハゲがうまいこと増すって、ほぼ呪術じゃん!
「下田くんも来るよね?桂川さんのハゲ増す会?」
なっ、ぼっ、僕にフリっ!
でも、ここでちゃんとみんなのノリにのっかっていかないと
暗いヤツだって思われちゃうからなっ!
日本人はみんなと同じでなければならないんだ、
それに桂川さんもなんだか黙認してるっぽいしな。。。よしっ
いっちょやってやるかっ
「なに?下田くん、なんか返事が微妙だけど
今夜なにか予定があるの?」
「ううん、予定なんて、、、全然
予定なんて全然ツルッツルだよぉ♪」
どうだっ?僕はありったけの明るいノリをこめて言った
怖くて桂川さんのほうを見ることができない
ごめんよ、桂川さん、でもコノ国じゃあ
みんなにあわせて生きていかなきゃ生きられないんだもの
「やったぁ!じゃあさ、下田ちゃん、わたしとどっちがハゲ増し上手か
今夜勝負しようよ
わたし、言っとくけどめちゃめちゃハゲ増し上手だからね」
「ぼっ、僕だって、ますますハゲ増すさ
もうめちゃくちゃハゲ増すんだぜ、つるっつるなんだからっ!」
もう帰りたい、そう思いながら
僕は日本人らしく笑っていたんだ
もしかしたら、こうやって
僕の髪もなくなっていくのかもしれない。。。
皆と、同じように
足並みそろえて、ハゲるんだ
- 2008/05/14(水) 00:27:14|
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想像もせず、ハゲマシハゲマシと連呼する 若い人たちに乾杯ー
- 2008/05/14(水) 01:05:20 |
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- かめ #-
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ハゲ増す会でさらに抜けそうですね。
女のムダ毛(脇毛、陰毛を除く)を男の頭に植毛できる時代がくればいいのに。
- 2008/05/14(水) 21:49:26 |
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- ぶー #-
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かめさん まっ、まさかあんな人の良さそうな桂川さんが週末にはブラックカツラに変身するなんて。。。世の中はうまくできているもんですね。間違えて週末に自分の職場に電話をかけて同僚に復讐していないことを祈ります
ルンバさん ハゲ信号、みんなでわたれば怖くない
ぶーさん 「ほらほら、見てみろよ、あいつの頭、元ちんげなんだぜ」
ていう時代が来るのですね、ぷぷっ
- 2008/05/14(水) 22:04:36 |
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- ハラキリ #-
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